キャベツ畑でつかまえて

観劇の長い感想と記録を残すブログです

ミュージカル「ザ・ビューティフル・ゲーム」観劇感想

ザ・ビューティフル・ゲームを観てきた。

アンドリュー・ロイド・ウェバー作曲、北アイルランド紛争を扱った2000年初演の演目で、日本でも何度か上演されてきたとか。

正直なところチケットが取れると思ってなかったので(ヒロインをみて慌ててナビザの抽選に申し込み当選してびっくりした)、ぜんぜん前情報を持たずに観劇したけど、しっかり社会派なミュージカルで面白かった。

北アイルランドとサッカーの話」と聞いて、サッカーを通じて絆が深まる的な話かと思っていたらそんなことはいっさいなく、そもそものチーム内ですらプロテスタントカトリックの諍いがあるし、分断は避けられない。

この辺、作中でも軽く説明はされるし分かったけど、可能なら事前に軽く予習しておけば良かったとは思う。
登場人物のほとんどがカトリックのため、プロテスタントが少数派に見えてしまうが、実際はプロテスタントの方が(この時代のベルファストでは)多数派だし、カトリック住民は歴史的に抑圧されてきたため、作中である1960年代から公民権運動が盛んになっている…… とかは、冒頭にさらりと触れられただけなので、忘れそうになった。もともとイギリスの演目なのでこの辺の基礎知識は当然共有されてる前提なんだろうなぁ。

同じ街に住む二つのグループに分断されている。非暴力の訴えはあるもののかき消され暴力に流れていくのは悲しかった。

サッカー以外のシーンでは象徴的に壁が存在していて、そこに斜めに入る照明が美しかった。道みたいで。
これ、さっき北アイルランドについての本を読んでて知ったけど、作中の時期以降、実際に壁が立てられてるんだね…… 分断を象徴する「壁」に光があたり、道が示されるのは、美しい演出だと思う。上演前後の幕に表示される言葉とか、サッカーの歌で足を踏みならすところとか、細かいところが丁寧で好きな演出だった。

ストーリーについて。北アイルランドの現代にもつながる分断と紛争と、それに振り回され影響され人生が変わっていく若者達の話で、ロミジュリみたいだな、と最初に思った。大人たちの憎しみが若者たちを対立へと駆り立てている。神父様が愛を語るけど彼もけして無謬ではない…… 構造はわりとロミジュリ。というか、ロミジュリで描かれたファンタジックな対立が、現実だとこうなのか、と。

オドネル神父(益岡徹)以外のキャストはみな実年齢も若くて演目に合ってるし、なおかつ実力派ばかりなのでALWの楽曲を存分に堪能できた。圧巻はヒロインのメアリー役木下晴香ちゃん! 冒頭に書いた通り晴ちゃん狙いで観に行ったので、素晴らしいソロを聴けて満足…… 結論の出ないテーマへの悲しみが伝わる良い演技だった。他にもクリスティンの豊原江理佳ちゃん、バーナデットの加藤梨里香ちゃんの女子三人は仲良しだし歌は素敵だし絆があってかつ可愛い。バーナデットほんと可愛かった。
男子チームも、主演の小瀧望くんは初ミュージカルとは思えない堂々とした演技で、歌もよかった。メアリーに対する歌声がちょっと甘くなるところが良い。あとトーマス役の東啓介くん! とんちゃんはわりと好青年で見かけるのでこんな暴力的で悪いお役は新鮮。ロミジュリで観た新里くん、グリースで注目した皇希くん、最近お名前をみるようになった木暮真一郎くんと、みんな良かったし役に合ってた。惜しむらくは「彼」が早々に退場してしまうこと!

前情報を持たずにとったチケットだったけど、観に行けてよかったです。
こういう他界隈で人気のキャストが主演する演目は「役者狙い」と言われがちな昨今だけど、売上の心配をせず硬派な演目をかけられ、客にとっても思いがけない出会いがあるのだから良い話だと思う。そもそも、ちゃんと実力のある人が多いしね。

とても良い演目でした。
2014年の馬場徹さん主演版も観たかった……ミュージカルってあとから追いかけられないから悲しい。ばーちょんまたミュージカル出てくれないものかしらん。