ミュージカル『DEVIL』プレビューコンサート感想とキリスト教モチーフについて
19日、韓国ミュージカル『DEVIL』プレビューコンサートを観てきた。
映えるポスターがなくてしょんぼり。
そういえばメインビジュアルも何も無いし、なんというかいろいろ急に決まったんだろうなぁ。しかし、公式サイトのトップみたいな顔写真並ぶアレで良いので、何かしら欲しかった。キャストボードも見当たらなかったが、私が観た回のダンサーは平山素子さん。
ゲーテの『ファウスト』を翻案したストーリーで、現代を舞台にした韓国ミュージカルの、日本プレビューコンサート。
おそらく本来は二幕構成なところを少しの台詞と音楽のみにして(あとおそらく登場人物もカットして)70分ちょいにまとめており、前提としているところが語られなかったり少し説明不足で気持ちが入りきらないところはあった。「夜のボート」から突然「愛のテーマ」に飛ぶような唐突さというか……(いったい何故だジョン・ファウスト!)
そういうちょっと勿体無いところはあるが、あと初演ということもあり観客も手探りなところはあるが(拍手のタイミングとか)、音楽がめっちゃくちゃかっこいいのと、なんといってもX-BLACK役の小西遼生さんが完全優勝していたので本当に観てよかったし、何ならこれから配信おかわりするつもりだし、みんなも観てほしい。
ストーリーは、そこまで複雑ではないかな。大きなネタバレにならない程度にいうと、
証券会社に勤めるジョン(村井良大)が、ブラックマンデーを機に顧客が大きく損害を出していくのに耐えきれず、謎の人物「X」の誘いに乗ってしまう。このXが原作のメフィストフェレスに相当していて、ジョンに悪魔的な力でどんどん成功させていく。ジョンも成功に溺れて本来はやらなかったはずの非人道的(?)な手段を取るようになり、人が変わったようになってしまう。それを恋人のグレッチェン(雅原慶)とX-White(中川晃教)が見守り、悪の道に進むのを止めようとするが…… という感じ。
この、X役の小西くんとあっきーのみがハンドマイクで、見下ろすように歌うシーンが多いんだが、小西くんが本当に! ほんっとうに!! ロングコートが似合う!!!
別に性的なシーンは一つもないしそういうことじゃないんだが、悪魔的な美しさと色気で誘惑されると従うしかないのわかるし、人智を超えた存在の説得力があった。めっちゃあった。
正直、最初あらすじを読んだ時は「あっきーわかる〜」と思ったし観た上でもそこはそうなんだけど、それ以上に何よりも小西Blackが最高だった。完全オペラ泥棒だったしもう一度アップにしてほしい。そのために配信を買った。
誘惑される村井くんもほんっとうに良かった!
歌の面ではちょっと埋もれてしまうところもあり、コンサートとしては弱かったんだけど(周りが良すぎる…)誘惑に従いながら「自分は善なる道を進める」と自らを恃むところがあるのも、そのまま人が変わって闇堕ちしていくのも、最後の決断もずっと「観たい村井良大」だった。私がキャスティング担当でもジョンは村井くんにオファーするわ。わかる。
雅原さんは初めましてだったんだけど、歌の第一声からの衝撃はもちろんだし、村井くんとのデュエット、最後のソロナンバーと見どころ聴きどころたくさんで美しくて最高だった…… 「善なる者」として存在するグレッチェン、か〜ら〜の!が本当に見事で、早く本公演でちゃんと観たいやつだった。
あっきーは、思ったより出番少なかった? 神であり天使である存在なので、ずっと見守ってるし何考えてるかちょっと分からないところがあった… しかし、神とはそういう存在なので。
X-Blackとのデュエットがめーちゃーくーちゃ格好良くて鳥肌がたった!
あの辺の歌を聴くために劇場へ行ってよかったし、もう一度聴きたいのでおかわりします。
舞台装置も衣装もすごくシンプルで(除くXの二人)まあプレビューコンサートだなぁという感じではあるが、そのシンプルな造形と、散りばめられたキリスト教モチーフの言葉と、コンテンポラリーダンサーとで、神話的な雰囲気もあった。あのダンスも素晴らしかったし最初よく分からなかったのでもう一回観たい。あと、照明のあたり方がイマイチで、やや暗くて見えないな…ってところが時々あったので、そこも配信で確認したい。わざと表情が見えないようにしてる、という風でもなかったんですが。
というわけで、観ていくうちにハマっていくような中毒性の高い演目だと思いました。
配信あるのありがたいし、早く本公演の発表をしてほしい。ミュージカル版だとどハマりする人続出すると思うので!
楽しみに待ってます。
2023年追記:本公演も観て勘違いが判明しました。
おまけ:キリスト教モチーフについて(ネタバレあり)
キリスト教には全然詳しくないのですが、いくつかは気付くところもあり。そもそも『ファウスト』がキリスト教価値観を元に書かれた作品でもあり。
その意識で配信を観たらちょっと分かった気がするのでまとめてみます。
- 讃美歌(レクイエム)が使われている
-「キリエ エレイソン」「サンクトゥス ドミヌス」はレクイエムの歌詞
- グレッチェンの最後のソロの手前で流れるのはモーツァルトのレクイエムより「涙の日」
- はっきりとは聞き取れなかったけど、ラテン語で歌ってるらしき箇所はだいたい神について歌ってそう。参考↓
7,8公演目が無事に幕。
— 山野靖博@9/9〜『ラグタイム』 (@YasuhiroYamano) 2021年9月23日
ご来場&応援に加えて
配信のご視聴もありがとうございました😈
物語終盤、
ジョンの大きな決断の前に影コーラスで
「聖なる主よ、憐れみたまえ」という意味の
ラテン語を歌っているんですけど
今夜はそのとき舞台袖の壁の模様から
髑髏が浮かんで見えた気が…。#DEVIL_JP
- 私のりんごの木…
- りんごと言えばエデンの知恵の木
- 原作のメフィストフェレスも誘惑の蛇を「一族」と言っている
- ラスト近くでジョンがグレッチェンについて「僕の骨」と歌うのもエデンイメージ(アダムの肋骨からイブが生まれた)……というのは穿ち過ぎ? - 王国
- これはあからさまだと思うけど、天国と地獄ですよね。
X-Whiteの王国である光と、X-Blackの王国である闇の底 - 百合、花嫁
- 百合と言えば聖母マリアの花、マリア様は「聖霊の花嫁」と呼ばれることもある(はず)
- 原作でもグレッチェンがマリアに取りなして… というシーンがあるらしい
- 照明の加減かもだが、グレッチェンのドレスはブルー(聖母マリアは絵画において天上を表す青い服を着ている) - X-Whiteが最後に歌う「血で罪を洗い流し……」的な歌
- イエスが十字架にかけられる事で人々の罪が許される的な考えが歌詞全体がイエスっぽい事を言っていた
最初に観たときはラストのジョンの決断に向かう流れがイマイチ理解できず、Blackが「いつものやり方だ」となじるのが意味不明だったのだけれども。
終盤、ジョンが受け取る手紙の「契約は終了します/この状況を変えたくば……」のうち、後者はWhiteの差し出した手助けなのでは?
グレッチェンは何度も守護天使に呼びかけており(求めよさらば開かれん、を彷彿としますね)、Whiteはグレッチェンを花嫁と呼びコーラスが百合と呼んでおり、その祈りに応えてWhiteはジョンが救われる方法を最後の手紙で提示していたのでは。手紙に答えるかどうかは賭だけれど(そもそもジョンに手紙を送ること自体がX二人の賭)、それにジョンは自己犠牲で応えたので、命は消えたが魂は救済された(Whiteの光の王国に行けた)
ということかな? というのが今の解釈です。
この辺の流れがキリスト教的価値観を元にしてるならちょっと急展開すぎて付いてくの大変かもしれない…… でも確かめたいので本公演はやめに! お願いします……!!
それにしても「Kyrie(主よ)」と呼びかけられてるの明らかにBlackの方なの、「光と闇は……」というテーマを感じさせられますね。ぶっちゃけ中二病っぽさを感じてわたしは好きです。
大好きです。