キャベツ畑でつかまえて

観劇の長い感想と記録を残すブログです

ミュージカル「スパイファミリー」観劇感想

※面白かったけど辛口です

 

ミュージカルスパイファミリーを観てきた。

3/15ソワレと3/19マチネの2回、Wキャストも瀧澤ユーリと子役以外は観る事ができた。

全体的には楽しかったし、ミュージカルに慣れてない人が帝劇に足を運ぶきっかけとなったこと、マンガを再現していて原作ファンが楽しめたことはとても良かったと思う。
特に、朝夏まなとさんのシルヴィア、鈴木壮麻さんのヘンダーソン先生、岡宮来夢くんのユーリは完璧だった。アーニャたちも芸達者でとても可愛かった。

メインでは拡樹ロイドが良かった!
リトショの時も「こんな悲劇を含んだ話だったのか」と思ったけど、同じ現象というか。ロイドさんのスパイとしての苦悩や何でもできるのに一般人の感覚が分からないおかしさ、哀しみ、平和を願う気持ちがビシビシ伝わってきた。あとかっこよかった。
それからふうかヨル! 私の思うヨルさんそのままで、帝劇経験とマンガ原作ミュージカル経験の高さがうかがわれた。

Wキャストはこの2人が好きだったけど、美玲ヨルさんも守りたい天然さで「ロイドさんがヨルとアーニャを見守っている」という言葉に説得力があったし、ウィンくんも誠実な役作りだったと思う。

アンサンブルキャストの団結力でグループナンバーはどれも楽しかったし、木内フランキー絶対アーニャちゃんたちと普段から仲良しなのが伝わって、それもとても良かった。個々のキャストはとても良かった。

衣裳やグッズもたいへん良かった。プログラムの秘蔵写真がヤバすぎた。

アクションも良かった。ロイドさんはスマートだし、ヨルさんのアクションは吹き替えだけどスムーズに入れ替わってて気付かなかった人も多いと思う(私のことです)
細かい笑いも多く、楽しかった。

でもミュージカルとしては物足りなかった。
「帝劇で観劇したな」という満足感は得られなかった…… というのが、正直なところ。

欠点はいろいろある。
メインキャストのうち初帝劇の方々の歌唱面があまりよろしくない*1
でもこれはキャスト発表時に予想してたことなので、想定の範囲内、というか気になるほどでもなかった。

そもそも曲があまり良くなかった。
歌詞が叙事的というか、「子どもが泣かない世界を」とか「弟を安心させたくて」とかそれしか言ってない単純な歌詞で、曲の中に起伏がない。特にロイドのような嘘つきな人物がセリフでは言わない内心を歌い上げるのがミュージカルの醍醐味… かと思いきや、内心を明かす歌は数行で終わり、一番歌い上げるシーンは偽りの妻への偽りの愛である*2。せっかくのソロなのに盛り上がりようがない。
なお、作中もっとも感情の起伏に富んだソロはユーリの歌でした。くるむユーリはよくやったと思う。

 

あとは、ストーリーがだらだらしてる事。結果的に上演時間が長くて子役がカーテンコールの最後まで出演できないのは、残念すぎる。

原作が一話完結型のコメディだから多少は仕方ないにしても、エピソードの連なりばかりで大きなストーリーのうねりを感じられなかった。これは、登場人物の感情のクライマックスと、物語のクライマックスと、ミュージカルとしてのラストがかみ合ってないのが要因だと思う。
例えば、ロイドの「子どもの泣かない世界を」というのがミュージカルとしての大きなテーマのはずだが、1幕と2幕のそれぞれ真ん中で語られており、そのあとにドタバタエピソードが続くので、どうにも印象に残らなかった。
幕間に入るタイミングも良いとは言えない。*3

1幕は「妻役を見つけて結婚する」2幕は「イーデン校合格」という大きな目標達成と、幕が下りるタイミングがズレていて、「いつ終わるんだろう」と感じてしまった。その結果カタルシスを感じられず、だらだらと感じられたのかと思う。
そうして話が続いた結果、アーニャがカーテンコールに最後まで出られないのは…… 優先順位を間違えてしまったのではないか。

もう少しエピソードを削って休憩込み2時間半にするか、いっそ休憩なし100分のドタバタミュージカルにした方が満足感は得られたと思う。
原作は好きだしいいところもいっぱいあるので、次は脚本を変えてクリエでやってほしい。需要に対して箱が狭い? 千秋楽ライブビューイングやればいいと思うよ!

 

「帝劇で」「東宝がアニメも手がけているスパイファミリーを」「人気キャラを出して」「3時間弱で」という条件が先にあったのだと思う。
その中では最善を尽くしてたと思う。
キャスティングも東宝らしくて悪くないと思う*4
でも、もうちょっと作品に合った脚本家・演出家・劇場を選んで欲しかった。

ま、これは私の好みの問題ではあります。全体的に楽しかったのも本当。ただ、物足りなかったのが残念で。
私の受容する器が足りなかっただけなのかな。

*1:ただ19日に観たフィオナはとても良かったので、15日はマチソワでお疲れだっただけかもしれない。帝劇は特殊な舞台とも聞くので、慣れもあるかも

*2:このシーンなど、マンガのナレーションによるツッコミをそのまま文字で表示しているのは、まぁ斬新だけど舞台芸術としてはどうかと思う

*3:お互いしかないとデュエットして爆発の中でプロポーズ、という感情も見た目も目立つシーンのあとに、家族ほっこりエピソード、さらにユーリの不穏なソロがあり、唐突にみんな出てきてテーマソングを歌って1幕が終わった

*4:某家で某氏が事故ったのを観て以来、キャストが合ってるかを重視しております。今回ウィンくんが微妙なラインだったかな…… でもセーフ