ロミオ&ジュリエット観劇感想【マジメ編】
プレスギュルヴィック版ロミオ&ジュリエットを観るのは4回目('17、'19、'21星組)だが、今回はちょっと違う感慨があったのでその辺を言語化してみる。
なお、ネタバレは一切配慮しません。
観に行ったのは6/4マチネと6/10ソワレの二回。
ロミオと死はW両方、あとはスケジュール優先で取ったらベンマキュティボが固定になった。
ので、その上での印象です。
他の人も言ってたので私だけの印象ではないと思うんだけど……
今回、いちばん強く感じたのは「大人たちの憎しみが子供たちを駆り立てた結果としての悲劇」という事だった。
私がそれを強く感じたのは味方良介さんのベンヴォーリオ。
ベンヴォーリオはわりとお兄さん的な立ち位置になる事が多いと思うんだけど、味方ベンヴォは違った。マーキューシオと一緒にわりと積極的にヤンチャをしてきたタイプだと思う。
自分が行ってる暴力、マーキューシオの持つナイフの怖さに気づかず、ただ一緒にいるのが楽しくて、その一環で喧嘩をしてきたような。
だから対決で、マーキューシオの死に誰よりも衝撃を受けていた。
あの大きな目を見開いたまま、まばたきもせずに泣き続けた横顔が忘れられない。先の事が予想できない、子どもだった。
誰より親しかったマーキューシオを喪い、ロミオが行ってしまって、ベンヴォーリオは一人でどうすれば良いのか分からなかったのだろう。
だから、ジュリエットの死を聞いていちばんにロミオに伝えに行ったし、それでロミオが傷つく事は想像できても、ロミオが霊廟に向かう事は想像できなかった。
そしてジュリエット。
これは天翔愛さんでより強く感じた事だけど、キャピュレット夫人が信じたよりジュリエットは幼かったのではなかろうか。
天翔ジュリエットは両親が愛し合っていないことで既に深く傷ついていた。そこから強く反発して親とは違う人生を歩もうと決意しロミオとの恋に突き進んでしまった。
思えば、そもそもキャピュレット夫人がティボルトとの事でジュリエットに嫉妬などせず、「親に言われた結婚も良いものよ」などと説得すれば、天翔ジュリエットはあっさりとパリスと結婚した気もする。追いつめられていなければ、ロミオと恋に落ちただろうか?(そうすると、バルコニーでのロミオはただのストーカーになっちゃうけど……)
キャピュレット夫人が親として大人としての態度を保てれば、こんなことにはならなかった、かもしれない。
まぁ、夫人も己の人生を選べずにいたので、犠牲者の一人でもあるけど(しかし甥との関係はどうなのか。虐待にならない……?)
さらにロレンス神父。
そもそも、神父がロミオとジュリエットを極秘で結婚させなければ良かったのでは。
神父が、「両家を和解させるなら大公を巻き込もう。ヴェローナの平和のためと言えば味方になってくれるはずだ。マーキューシオを使いにやろう。おい、まさかマーキューシオとベンヴォーリオに結婚の事を話していないなどと言わないだろうな? お前たちは兄弟よりも親しい友人だろう! 友だちも参列できないような結婚式をするつもりか? 準備はしておくからまず二人に話せ!」
と、ちゃんと説得していれば良い感じの結婚式で終わったと思う。
2幕、マーキューシオもベンヴォーリオもロミオに裏切られたのが悲しかっただけで、最初に「実はジュリエットが好きで……」と打ち明けていればけっこう助けになってくれたと思う。
二頭の犬みたいな、やんちゃな二人だった。
今までのロミジュリは「不幸なすれ違いから生まれた悲劇」と思っていたけど、「避けられるものを避けず、悪い方を選択した結果の悲劇」だったんだな。メールだけの問題じゃなくて、もっと根本から、避けられた悲劇だったな……
と、気付けた2021年版ロミオ&ジュリエットだった。
以下オマケで、他のキャストについてつらつらと。
甲斐ロミオは、ベンマキュより少しお兄さんで、二人がやりすぎないよう止めてきた説得力があった。
いちばん驚いたのは憎しみ~エメでみせた「怒り」
甲斐ロミオは根本に怒りや憎しみを抱えていて、しつけが良いから(本人も気付かないほどに)隠してこれただけなんじゃないか。その怒りを感じ取って、ベンマキュはロミオを慕っていたのかもしれない。
最後にジュリエットを思ってフワリと笑うのが怖かった。愛は行き過ぎると狂気だよね……
黒羽ロミオは発光するような煌めきがあって、自然と人が集まってくるロミオだった。
ベンマキュとは同い年で、少し浮世離れしたロミオを二人がモンタギューに留めている感じ。ティボルトを刺したのも、本当にそんなつもりではなく何かに浮かされてしまったのだと思う。
上でいろいろ言ったけど、黒羽ロミオはそりゃ友だちに恋の話をしないよな、夢見がちだもんな……(そして甲斐ロミオは自己完結してるのでやっぱり相談しない)
伊原六花ジュリエットとの相性がめちゃくちゃ良くて、この二人は同じ高校で出会っていたら普通に恋に落ちて、普通に長続きしそう。
伊原ジュリエットは、こういう子““いる””という実感が強かった。
たぶん、歴代ジュリエットの中でいちばん友だちが多そう。当たり前の16歳の女の子が普通に恋をして、ちょっと勢いよく飛び出してしまった感じ。世界線が違えば絶対にロミオと幸せになれたタイプなので、霊廟が本当に悲しかった。
立石ティボルトは、繊細なティボルトだった。
お顔が綺麗なのもあるけど(オペラでみたらくちびるが赤くてびっくりしたことですよ)強さより優しさに力点があって、その優しさをジュリエット以外には発揮できずにいる感じ。
ティボルトの周りに人が集まるのはキャピュレットだからってだけじゃないけど、たぶん、本人だけはそれを信じて無かったと思う。
新里マーキューシオをみたとき、「マーキューシオがキャピュレットにつく可能性もあった」と思いだした。
マーキューシオは大公の甥だから、本来は中立なんだよね。
しかし髪がピンクだったり、マニキュアが一部赤かったり、敢えて「キャピュレットだったかも」を見せてると思ったし、このマーキューシオはそもそもティボルトへの執着もあったのでは? と思わされた。
ティボルトとの過去は語られていないから好きに妄想してるけど、マーキューシオとティボルトは抱えている寂しさが似ていて、二人で過ごそうとしたこともあったんじゃないか。
その頃をティボルトは忘れてそうだけど。
語られないこと、見せていない事がこの二人には多くあって、けっこう妄想が捗る。
そういう視点も持てるのは、ロミジュリの良さだと思った。
本当なら、他のキャストも観たかったな。